NMC Horizon Report > 2017 Higher Education Edition (Japanese)
>高等教育向けの教育テクノロジーにおける重要な発展
>>導入ホライズン:4年から5年以内

人工知能(AI)

導入ホライズン:4年から5年以内

要旨

序文

高等教育へのテクノロジー適用を推進する重要な傾向

長期間にわたる傾向:今後5年以上の期間にわたる高等教育の変化を推進

 > イノベーション文化の進展
 > より深い学習アプローチ

中期間の傾向: :今後3-5年の高等教育の変化を推進

 > 学習度測定への注目の高まり
 > 学習スペースの再設計

当面の傾向:今後1-2年の高等教育の変化を推進

 > ブレンド型学習デザイン
 > 協調学習

高等教育における技術導入の妨げとなる重大な課題

解決可能な課題:課題を理解しその解決方法も分かっている

 > デジタル・リテラシーの向上
 > フォーマル/非公式学習の統合

解決困難な課題:課題を理解しているが、解決策は明確になっていない

 > 教育格差
 > デジタルエクイティ(公平性)の向上

深刻な課題:取り組むのはおろか、定義すらできないほど複雑な課題

 > 知識の陳腐化の管理
 > 教育者の役割の再考

高等教育向けの教育テクノロジーにおける重要な発展

導入ホライズン:1年以内

 > 適応学習テクノロジー
 > モバイル学習

導入ホライズン:2年から3年以内

 > モノのインターネット(IoT)
 > 次世代 LMS

導入ホライズン:4年から5年以内

 > 人工知能(AI)
 > ナチュラルユーザーインターフェース(NUI)

調査手法

2017年高等教育専門家パネル

人工知能(AI)の分野では、コンピュータサイエンスの進歩が活用されて、人間の機能により忠実に似ているインテリジェントマシンが作り出されている[i]。コンピューターが人間の知覚、学習や意思決定を真似ることを可能にする知識工学は、様々な情報セットのカテゴリー、特性やその間の関係へのアクセスに基づいている。機械学習はAIのサブセットであり、明確にプログラムされていなくても学習する能力をコンピューターにもたらすものである[ii]。もう一つの重要な研究分野であるニューラルネットワークは、人間の脳の生物学的機能をモデルにして、言葉や声調などのインプットを解釈し、これに反応する。ニューラルネットワークは音声認識と自然言語処理を介して、人間が緒方位に働きかけるのと同じように機械との間で働きかけを行うことを可能にするため、より高度で自然なユーザーインターフェースにとって価値があることが判明しつつある[iii] 。基本技術は発展し続けており、AIはより直感的に学生に対応しやり取りするような方法で、オンライン学習、適応学習のソフトウェアや研究プロセスを向上させる潜在力をもっている。

概要

1950年代以降、機械の知能のベンチマークとして用いられてきたのはチューリングテストと呼ばれるものである。これは、会話と現実世界の状況において、機械の発言か人間の発言かを別の人間が識別できるかどうか(できない場合人工知能と認められる)を基準とするものである[iv]。このテストはついに2014年に突破されて[v] 、AIは今やディーキン大学におけるIBMのWatsonの利用を含め、24時間対応で年中無休のオンライン・ヘルプデスクという形で、高等教育において当たり前のように活用されている[vi] 。教育にとってのAIの全面的潜在力はいまなお未開発であるが、教育機関は消費者セクターにおける開発を当てにすることができる。たとえばバーチャルアシスタントは、人間同士の働きかけそのままに、話し言葉に含まれている合図を解釈して対話形式で対応する[vii] 。SiriやCortanaなどの人気のアバターはスマホに組み込まれているが、AmazonのAlexaは独立型バーチャルアシスタントとしてありふれた名前になりつつある。Alexaは常に音声入力を受け付けており、遠距離マイクを用いて、命令に従ってウェブで情報を検索する[viii] 。実際、人々のニーズを満たす自立型技術が注目を浴びている。Uberは最近、一団の自動運転車のパイロットを行い、サンフランシスコ周辺で安全に顧客を運んでいる。[ix]

ただし、この分野の進歩のスピードが人々の理解を上回るレベルになっていることを懸念する向きもある。AIは、生来複雑でその機能がわかりにくいため、信頼の高めていくためには、AIがどのように機能しているのかを具体的に示すインターフェースが必要である。IBMはこの分野の牽引役であり、医療用AIシステムの画像や説明チャートを公表している[x] 。高等教育においては、仮想チューターやより高度な適応学習ツールには決まって、どれほど人間らしく見えても、テクノロジーは教育者に代わることはできないし、代わるべきでもないという懸念が示される[xi] 。コーネル大学のBrandon Hookway教授が著した『インターフェース』という本は、[xii]  「インターフェース大学」という表現形式で、よりバランスのとれた高等教育の将来を構想している。この考え方では、AIの使えるコンピューターはツールではなく、創造的な認知学習プロセスを向上させる第三の脳半球―人間とそのもつ装置の間における対等で共生的なパートナーシップ、あるいはハイブリッド知性―であると見なされている[xiii]

機械学習は、すでに職業生活とインフォーマル学習の双方で進歩に拍車をかけている。市民サイエンスプロジェクトであるSmart Flower Recognition Systemは、Microsoft Research Asiaと中国科学院とが提携したもので、中国の植物学者がスマホで撮影した写真で迅速に植物を特定するのに役立っている。アルゴリズムがニューラルネットワーキングを介して、提出された質の良くない画像を自動的に除去し、写真データベースにある花を、90%以上の確度で特定するのである[xiv]。この種のプロジェクトが学生と教員の研究に及ぼす影響がきわめて興味深いのは、もはや検索クエリーがテキストである必要すらないためである。高等教育が今後4-5年におけるAIのアフォーダンスを見積もろうとする場合、OpenAI[xv] やGoogleのTensorFlow [xvi] が提供しているオープンソースコードや、数値計算用のオープンソフトウェア・ライブラリから始めることができる。

授業、学習、創造的探究との関連性

人工知能の包括的目的は、生産性や仕事を支え、世界の労働力や個人の日常生活をより良くサポートすることである[xvii] 。このため、この技術は、特に授業と学習のオンライン化が進む高等教育にとって有望なものになる。本レポートで先に取り上げられた適応学習は、AIの基本的アルゴリズムを活用して学習を個別対応化し、成績とテーマへの取り組みに基づいて学生のニーズに最も適したコンテンツを実現するものである[xviii]。教育機関は学生の学習に関して収集するデータの量が増えているため、それを大規模に掘り出し、分析するためのツールも必要である。Jenzabar[xix] やIBMのSPSS[xx] を含む機械学習の企業ソフトウェアは、カレッジや大学がデータを解釈して学生を維持し、学資援助プログラムを改良し、将来の入学者数を予測する上で役立つ。コンピテンシーに基づく教育などの新たなアプローチは、3Dモデリングや自動車のひな型作りなどの具体的なスキルの獲得を評価し、カスタマイズされたフィードバックを提供するために、より高度な形式のAIを必要するだろう。

高等教育における個別対応化の向上を求めて、ビル・ゲイツなどの思想的指導者はAIチューターを主唱している。たとえば作文の課題に対して徹底的なフィードバックを行うことは教員にとって、広範囲にわたり時間のかかるプロセスである。これが仮想チューターであれば、字面上の誤りをチェックすることを超えて、意味、テーマや論拠を分析して、学生にきめ細かいフィードバックを行うことができる。オンライン教室であれば、チューターはビデオ講義を中断して直接学習者に質問をし、その学生が特定のテーマを理解するのに苦心していることが明らかな場合にはビデオの一部を再生することができる[xxi]。この種のサポートと指導が同時にどこででも行われれば、特に教師が生徒に1対1の関心を向けることが難しい大規模な入門コースでは、学習のギャップを埋めることができる。チュニジアにあるスース国立技術者養成学校の研究者は、学生が遠隔の仮想ラボで科学実験に取り組んでいる時の顔の表情を認識するAIチュータリングシステムの研究を行っている[xxii]

ただし、AIの倫理についての懐疑主義的見方が進歩を妨げる可能性がある。世界経済フォーラムは人種差別などの学習された偏見を主な懸念として挙げ、人間がこうした意図せざる結果を防ぐ能力に疑問を呈している[xxiii] 。AIの主唱者がこうした問題を乗り越えていく上で、大学は新たな可能化技術の開発を支援する不可欠なインキュベーターである。MITのコンピューター科学および人工知能ラボは最近、静止画を観察して、今後に起こりそうな事象をシミュレーションする短いビデオを作成する、深層学習のアルゴリズムを創り出した[xxiv] 。スイスではチューリッヒ大学のAIラボが、数多くのフォローアップ行動を促す実物そっくりの関節と腱をもつ人型ロボット、Roboyを開発し、研究者や教授たちはヒトの脳プロジェクトなどを通じて、ロボット用に人の脳のシミュレーションを行っている[xxv]。日常生活へのAIの組み込みが前進するか否かは、機械と人の間に、より本物に近いやり取りの口火を切らせるような自然言語処理の進歩にかかっている。ブリュッセル自由大学の研究者は、ロボット・エージェントがどうすれば言語を自らまとめ上げることができるかを研究しており、意味は言語と共進化し得ると推測している[xxvi]

人工知能の実例

以下のリンク先は、高等教育環境に直接の影響を及ぼす人工知能の利用例を示している。

ミシガン大学人工知能研究所

go.nmc.org/umail

ミシガン大学のAI研究所が主に注力しているのは、肉体的、認知的な障害をもつ人々のための支援技術の研究・開発である。こうしたプロジェクトのひとつが、視覚障害者のニーズを満たすために自動的な調整を行うコンピューターインターフェースの設計である。

SAIL-トヨタ研究センター

go.nmc.org/sailtoy

スタンフォード人工知能研究所はトヨタと提携して、次世代のインテリジェントカーの研究を実施している。機械学習、ロボット工学や自然言語処理などの分野の研究者が集まって、新たなアルゴリズムの開発に当たっている。

ケンブリッジ大学人工知能グループ(AIG

go.nmc.org/claiuc

AIGは、機械のパターン認識の問題に対処し、その上でこういったモデルの実際的な応用を特定する強力なアルゴリズムを案出するために、複数の学問領域(ゲノミクス、計算論的学習理論、インフォーマル推論を含む)を渉猟している。

推薦文献

人工知能についてさらに学びたい方のために以下の記事および資料を推薦する。

人工知能が大学に恩恵をもたらし得る4つの方法

go.nmc.org/4ways

(Rose Luckin, Times Higher Education, 9 August 2016.) 著者はAIがもつ他の3つのアフォーダンス(意味)に加えて、高等教育は複雑な知的システムと肩を並べて働くことを学生に訓練するのに適した立場にあり、どうすれば、またどのような場合に人間の知能が機械を増強させることができるかを巧みに見分けることのできる労働者は、生産性を向上させる潜在力をもつ、と述べている。

教育における人工知能の未来

go.nmc.org/futai

(Barbara Kurshan, Forbes, 10 March 2016.) 教育界においては、AIの進歩はいまなお後れを取っているが、Googleなどの業界最大手は、毎日の活動の効率をより高めるための深層学習ソフトウェアの開発に投資している。この記事は、コーネル大学とブラウン大学で、ちょっとしたタスクを遂行する方法を学習することのできるロボットの設計において進歩があったことに言及している。

AI時代の高等教育

go.nmc.org/machinesdo

(Joseph E. Aoun, The Washington Post, 27 October 2016.)  2016に行われたある調査で、AI研究者の80%が、機械は人間の知能に見合うレベルを達成すると断言している ことが明らかになっている。医療診断などの専門的領域におけるAIの応用が増しているため、著者は、人生における一つの区間を示す節目というよりも、生涯学習の達成手段として高等教育を考えることを人々に推奨している。

[i] http://www.computerworld.com/article/2906336/emerging-technology/what-is-artificial-intelligence.html

[ii] http://www.sas.com/en_us/insights/analytics/machine-learning.html

[iii] http://artint.info/html/ArtInt_183.html

[iv] http://whatis.techtarget.com/definition/Turing-Test

[v] https://www.theguardian.com/technology/2014/jun/08/super-computer-simulates-13-year-old-boy-passes-turing-test

[vi] http://www.deakin.edu.au/about-deakin/media-releases/articles/ibm-watson-helps-deakin-drive-the-digital-frontier

[vii] http://www.slate.com/articles/technology/cover_story/2016/04/alexa_cortana_and_siri_aren_t_novelties_anymore_they_re_our_terrifyingly.html

[viii] http://www.slate.com/articles/technology/cover_story/2016/04/alexa_cortana_and_siri_aren_t_novelties_anymore_they_re_our_terrifyingly.html

[ix] http://www.nytimes.com/2016/12/14/technology/uber-self-driving-car-san-francisco.html

[x] https://www.flickr.com/photos/ibm_research_zurich/albums/72157636361743526/with/10173949393/

[xi] http://www.recode.net/2016/6/22/11985726/robot-teachers-artificial-intelligence-coursera-daphne-koller

[xii] https://mitpress.mit.edu/books/interface

[xiii] https://mitpress.mit.edu/books/interface

[xiv] https://www.microsoft.com/en-us/research/blog/researchers-team-up-with-chinese-botanists-on-machine-learning-flower-recognition-project/

[xv] https://openai.com/about/

[xvi] https://www.tensorflow.org/

[xvii] https://medium.com/@tdietterich/benefits-and-risks-of-artificial-intelligence-460d288cccf3#.4m86dzivv

[xviii] http://er.educause.edu/articles/2016/3/adaptive-learning-platforms-creating-a-path-for-success

[xix] https://www.jenzabar.com/higher-education-solutions/enterprise-resource-planning-erp/

[xx] http://www-01.ibm.com/software/analytics/spss/academic/solutions/administrators.html

[xxi] http://www.theverge.com/2016/4/25/11492102/bill-gates-interview-education-software-artificial-intelligence

[xxii] http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1877050915034912

[xxiii] https://www.weforum.org/agenda/2016/10/top-10-ethical-issues-in-artificial-intelligence/

[xxiv] https://www.csail.mit.edu/node/2910

[xxv] http://roboy.org/

[xxvi] https://ai.vub.ac.be/research/topics/evolutionary-linguistics